| HOME | NNYJとは | 実績 | 学習会 | 組織概要 | お問い合わせ | English |
2019.09.12 Thursday 05:35

子どもと養護教諭が抱えた困難をどう切り拓くか【学習会報告】

2019.8.17学習会報告

 

学習会テーマ:「子どもと養護教諭が抱えた困難をどう切り拓くか」

 

.初めに ―学習会の目的―

NNYJでは今年の学習会のテーマを「子どもと養護教諭が抱えた困難をどう切り拓くか」と設定しました。このテーマの背景には、「子ども期の貧困化」があらゆる面で進行し、子どもの成長発達を保障する環境が非常に悪化して、子どもの健やかな育ちが阻まれていることがあります。加えて学校では競争主義的な教育制度の下で、いじめ、暴力、不登校、自殺などが過去最高となり、いのちの安全すら脅かされる状況も表れています。

また、この競争的な教育制度はゼロトレランスの指導や○○スタンダードなどの管理主義の傾向となって学校現場に広がり、子どもに寄り添う教育が排除される傾向となって、養護教諭の仕事にも重大な困難として降りかかっています。

こうした状況の中で子どもも養護教諭も大きな困難を抱えていますが、その困難をどのように切り拓いていくのか。子どもたちに丁寧に寄り添い、学校ぐるみで関わることで、子どもたちの成長発達を保障する実践が困難を切り拓く力になるのではないか。そう考えてこのテーマを設定しました。

 

供ゥ譽檗璽箸猟鶲

レポートテーマ

「子どもと養護教諭が抱えた困難をどう切り拓くか

   〜教育と発達支援と医療の狭間で、その子のために必要なこととは〜」

レポート提案者:中学校養護教諭

 

レポートの概要  (「 」内はレポートから引用した文章)

  • A君の様子

強い発達特性を持つA君。A君は小学校では「校内徘徊、職員への暴言暴力、職員室にも勝手に入り机の中から物を持ち出したりパソコンを使う」などやりたい放題だったが、小学校の対応としては「家庭や医療機関ともうまく連携ができていない。市の教育相談や発達支援関係、市SSWなど手当たりしだい招いてはいるが、組織的な支援とはなっていない」状況で、A君がパニックになって暴れた時はA君が鎮静化するまで教員が体ごと押さえつけているというような対応であった。

 中学校ではこうした状況を把握し、「組織的な支援をしていくことが必要」と考え「適応支援係(特co・養護教諭)を中心に支援体制づくりをした。「中学校生活についてのルールブックを作成し、安心して過ごせるための環境づくり」をめざし、春休みにはA君と母親に学校のルールを伝えたところ、A君はふんふんとうなずいて聞いていた。こうした法律的な決め事はA君には入りやすい。しかし、服薬についてのチェック表を提案したところ、服薬チェックをするのは人権侵害だといって拒否した。またSSWからは、中学校では暴力が止まらない時には警察に介入してもらうことが提案され、母親も承諾した。

中学校生活

「自情障学級を主たる学習や生活の場所としながらの生活が始まった。しかしA君の思うようにならないと)いきなりキレてクラスへ攻撃にいく、それを職員が制止する」「女性教職員への暴力があり、警察に介入してもらう」という日々の始まりだった。その一方で、荒れた翌日登校したA君と振り返りができ、ヘルプカードを使うなどの相談ができた。ヘルプカードとは養護教諭の発案でA君と関係職員で話し合って作り、ラミネートしたカードを全教職員が持っていて、A君がイライラしそうになった時、近くにいる先生がA君に示し、A君がカードでつたえるもの。

移動:【いらいらしそうです → 先生と一緒にその場から離れます】

HELP:【わからないので聞きたい・相談したいです 先生に聞きます・相談します】

 

 

また、“分析カード”を作り、暴力事件を起こしてしまった出来事について、その時の感情や思いを順番に思い起こして分析をしたり反省し、またよくできたことを整理したりという時間をもった。A君はこうした取り組みで振り返りができるようになる一方で、まだまだ感情のコントロールはうまくできず、「彼の願いに沿わない事態が起きると、即攻撃になる。対象はその相手とは限らず、ずっと前のうらみの相手だったり職員だったりで、理由もなく威嚇や暴言を受けた」。

こうした状況の中で、疲弊しきった教職員から「登校停止」「他の学校へ」という考えが出てきたが、教育相談の先生と療育コーデイネーターからは「4月からの短期間に学校での取り組みによりA君が育っていること、当面の課題は学習より社会性をつけること、そのために振り返りをていねいにし、A君と一緒に分析していくこと」とアドバイスを受け、学校で「まだできることがありそう」と考えることができて、かかわりの3原則を教職員で共有することができた。

 

かかわりの3原則 

不安から様々な行動をおこす→不安をなくす、見通しを持たせる

生徒指導→いけないことはいけないと示す

授業を止めない→「待ってるよ」と見守る

 

 

不安への対応として“見通し相談カード”を作ったり、A君が暴れても授業を中断せず、「待ってるよ」という教員の姿勢が伝わりその後A君が授業に戻ってくるなど、信頼感が少しずつ作られていった。

 こうした一連の取り組みをA君は「学校が自分のことをわかろうとしてくれている」と受け止めるようになっていった。  

宿泊行事への参加と家庭の抱える問題

 宿泊行事への参加をめぐっては行事中のA君の行動が予測できない不安があり、また、同時期に同級生の体に触るという性のトラブル事件を起こしていたこともあって、参加の仕方をめぐって母親と相談の場を持った。しかし議論がかみ合わず、家庭での相談に任されたが、A君が納得できるような相談は家庭では無理だった。だからこそ、学校での様子からどういう参加の仕方が一番安心か、本人が納得できるような相談が必要だったのだが、悔いの残る結果となった。結果的にA君は不参加となった。

性のトラブルについては思春期に入り、今後は性衝動を抑えられない状況になることも心配され、療育コーデイネーターに相談すると性教育だけでは興味を強めてしまうと言われ、まずは5段階ルール(資料4:「落ち着いて生活できるための表」)をしっかり入れることが必要ということになった。

 家庭の抱える問題としては、A君への父母からの暴力・暴言による虐待があり、また母親も困難さを抱えていて学校での取り組みや願いを理解してもらうことができない。家庭との関係が築けず、母親の学校批判、職員批判をそのまま持って登校してくるA君。家庭との関係改善が必要不可欠になっていた。

と菠世垢覿疑Π、不安を抱える子どもたちとそれへの対応

 A君の問題に中心になって対応している先生の中の一人が倒れた。また、A君の攻撃対象は全校生徒にも広がっていて子どもたちの中にも不安や不満が広がった。養護教諭として「職員や生徒のSOSを拾わなければと考え、心と身体のチェックリスト(文科省 子どもの心のケアのために第3章)を教職員と生徒に実施することと、関係者会議をもつことを提案」した。「教職員のアンケートには今まで口に出せなかった不安や限界と思う気持ち、体の不調が赤裸々に書かれていた」。「生徒のアンケートにもSOSが出ていた。1学年はSCの全員面接、23年の心配な生徒に対しては担任や養護教諭による教育相談を実施」。「その後に開催された1学年の保護者会で生徒の状況と今後の支援について説明した。教職員にはSSWによる面接」をした。

ハ携の力で

 A君の問題に対応するために校内では適応支援係(特co・養護教諭)を中心に、全職員で組織的

に支援していく必要があると考え、共通理解をしながら新一年の支援体制づくりをした。さらに、市の教育相談や療育コーデイネーター、市教委や市の子ども相談室、SSW・県特別支援教育指導主事、警察、MSW、児相などと繋がっていった。警察との連携では生活安全課の思春期サポーターをしていて特別支援にも理解ある人とつながることができた。定期的には市の教育相談や療育コーデイネーター、県の指導主事と相談し支援を受け、その結果を教職員で共有した。2回の関係者会議を持つ中で、MSWと繋がることで医療機関とも連絡をとることができるようになり、「病院は児童精神科と連携してみていかなければいけないケース』と考えているということだった。適切な医療が受けられるようにしていくことが今後の支援の大事なポイントであると確認」できた。また、児相がMSWと情報交換し、学校へ病院の情報を伝える、学校と家庭の関係調整と母親フォローをすることになった。医療機関との連携、家庭支援、母親支援の方向性が少しずつ見えてきた。

Δ修譴召譴抱える困難と今後の課題

・本人の課題:感情のコントロールができない(振り返りができても次に生かせない。SSTやアンガーマネジメントも形は入っても意味が入っていかない。5段階ルールも限界がある)、二次障害から精神の問題への移行も心配、など

・家族の課題:父母の虐待、家庭との関係改善の課題

・学校の課題:

特別支援(発達)と精神保健(医療)、生徒指導の考え方のちがいのなかから彼に合った方法を学校が考えてやっていくことの不安。

組織対応のむずかしさと成果

 A君のようなケースについて教育の限界とし、排除するという考えが繰り返し出る

管理職が保健室に居ることで子どもを見る目と取り組む視点が成長したという成果も

養護教諭の果たす役割(“受容”と“指導”の兼ね合わせの難しさ)

職員のメンタルヘルスケア

С惺擦箸靴討虜8紊亮茲蠢箸

「学校はこれまでどおり子どもの成長に信頼を寄せながら、彼への支援を継続していく。他の生徒の安全を守りつつ、彼にとっても安心して過ごせる場所になるよう、気持ちに寄り添い、認め、いけないことはいけないと教えていく。そして彼のために必要なことは何か、関係機関と連携し考えていく。それが、学校ができること、すべきことである」。

 

討論から

討論では主にA君の問題をどう理解しどう支援するか、母や支援・家庭との連携づくりをどう進めるか、障害を持つ人の性教育をどう考えたらいいか、学校内外との連携をどう進めるか、養護教諭の役割などについて議論されました。以下は主な発言内容です。

 

 

(1)A君の抱える問題をどう理解し、どう支援するか

A君は発達特性を抱えているほかに、重要な問題としては二者関係ができていないのではないか。愛着障害を抱えている。また虐待による二次障害としての暴力行為が止まらないと考えられるのではないか。

二者関係は愛着を基礎に築かれる。安定した愛着を形成するにはA君の身近にいる存在が、臨時の、あるいは半永久的な安全基地となることで愛着の安定を図る方法(愛着安定化アプローチ)が必要と考えられる。その役割にだれがなれるのか。一般的には養護教諭がなることが多いが、校内で役割分担できるのではないか。すでにレポーターはその役割も果たしているように感じられる。養護教諭としては受け止めることと指導の兼ね合いがむつかしい(レポートの記述から)とのことだが、役割分担を明確にすることでたっぷり受容できるような関わりが可能だし、必要なのではないか。そのことでA君に安心感が生まれ、二者関係ができ、落ち着いていく要素になるのではないか。そこからA君を認めていくこと、A君の良さ、素晴らしさを見つけていくことができるのではないか。などの意見が出され、レポーターも「愛着づくりの重要性を痛感したので今後考えていく」とのことであった。

 A君への取り組みとして、「中学校生活のルールブック」「ヘルプカード」「分析カード」「見通し相談カード」「落ち着いて生活できるための表」づくりなど、A君の状況に合わせて視覚的な取り組みを展開していることがA君にフィットしたのではないか。A君がパニックを起こす前のサイン(睨む・ブツブツ言う)を本人の言葉として引き出すなどA君の状況把握が綿密で的確で、その状態にあった取り組みが展開されていると思った。A君のような子どもに有効な手立ては何かを追究することがとても重要であると思った。

  中学校では職員室のパソコンを触らせないということだったが、発達特性を持つ子どもへの教育的な配慮として、例えばパソコンに触れることが子どもへの対応として有効であればそのように変えていくことも必要ではないか。パソコンを教育的配慮として学ばせていくことで子どもの自尊心を育むことも可能ではないか。

(2)母親支援・家庭との連携づくり

 母親の抱える困難さに寄り添いつつも、母親が信頼を寄せている児相の役割が大きいと感じられた。また、父親の暴力をA君が恐れているという問題があり、父親への支援をどうするかは今後の大きな課題だと感じる。

(3)障害を持つ人の性教育をどう考えるか

発達障害を持つ人で性暴力の加害者になってしまった人の相談を受けたことがあるが、ストレスなどでスィッチが入ると加害してしまうという。A君にも親と相談しながら適切な性教育が必要だと思う。セルフプレジャー(自慰)の在り方などをきちんと教育することが大事だと思う。

(4)学校内外との連携をどう進めるか

 養護教諭を中心に学校内での連携と、校外の必要と思われる関係機関、専門家との連携がうまく作られ、それぞれの力がうまく引き出され、統合されることによって解決への道筋が少しずつつくられている。A君のような大きな困難を抱えたケースには様々な力が生かされることが問題解決に必要だという視点が明確で、そのことに学ぶところが多い。

さらに、職員のメンタルの問題にも配慮した取り組みが素晴らしい。

  また、今後の学校としての取り組みとして「学校はこれまでどおり子どもの成長に信頼を寄せながら、彼への支援を継続していく。他の生徒の安全を守りつつ、彼にとっても安心して過ごせる場所になるよう、気持ちに寄り添い、認め、いけないことはいけないと教えていく。そして彼のために必要なことは何か、関係機関と連携し考えていく。それが、学校ができること、すべきことである。」とレポートは締めくくられている。切り捨ての教育ではなく、どの子も成長発達させていく対象としてとらえているところが重要だと感じた。

 

討論のまとめ

 現在進行形の非常に困難なケースについての報告と討論だった。現在の学校現場の困難さが伝わり、子どもも学校現場も非常に苦難の状況にあることが分かったが、その困難さの中でも希望の光が見えたように思う。それはどのような困難さの中にあっても子どもに丁寧に寄り添い、取り組みに工夫を凝らし、学校ぐるみ、家庭・地域ぐるみで関わる取り組みを進めることによって、子どもたちの成長発達を保障することができるということである。その中で養護教諭の果たす役割はとても大きい。現在の困難を切り拓く力はここにあるのではないかということが確認されたと思う。このことを確信にして、今後も取り組みを進めていくことが重要である。    

(文責:富山芙美子)

参加者の感想

・本日は貴重な現在進行形の実践をありがとうございました。本校でも同じように特性の強い生徒のことで日々奮闘しています。

本校のT君と私は直接関りがないのですが、特別支援のコーディネーターを担っているので、連絡調整役を行っているうえで、先生が校内でどうみんなでA君にかかわっていくのかという視点での取り組みが大変参考になりました。

夏休み明けの毎日の大事な視点をいただきました。       

・関わりの困難な大変な子どもとのかかわりの実践を報告していただき、考えさせられました。また、レポート検討で学ばせていただきました。

 A君の成長のために、辛抱強く職員みんなと理解を深めながらあきらめず、「人ぐすり」でかかわろうという学校の姿勢を中心になって、職員のメンタルにも気をつけながら、作り出そうとしているレポーターの先生の力はすごいなぁと思います。

 ぜひ今後もA君を信じて、関わっていただき、また、報告をお聞きしたいです。

・4月から帝京短大に養護教諭を目指し通いだして、4ヶ月ほど経ちましたが、まだまだ勉強が足りていなかったなぁと思わせられました。

レポーターの先生の事例発表はもちろんですが、質問のレベルも高く、実際勤務経験に基づいたものであったり、私にはわからない用語もとんでいて、学習への意欲がわかざるを得ませんでした。

 お邪魔させていただき、本当にありがとうございました。次回もよろしければ参加させていただきたく存じます。                

・実践経験のない私からしてみたら、おどろくことも多く、本当に勉強になりました。

 養護教諭、担任、保護者、それぞれがどのような問題を抱えているのかを知ることができてよかったです。そして、どのような対応をしていくことが正しいのか私自身とても深く考えることができ、良い経験になったと思います。  

・ありがとうございました。胸がいっぱいで言葉になりません。学校の超多忙から、とっても超々忙しい、生命を削って仕事をしている教員たちの中、レポーターの先生が音頭をとってAくんを包み込んでいる4ヶ月。すばらしい・・・・

 先生たちのケアもアンケートや個々のケア、受容、通院もされてすごいなと思っています。                            

・本校でも対応、体制づくりに困っています。どうしたら本人のためになるのか。本人に合わせた学校生活を考えていたのですが、まだまだ足りなかったと反省しました。

 関わっていく中で、本人や家族の苦しみもわかるけど、職員の限界、周りの子供たちの恐怖感、保護者の方々からのクレーム…等あり、夏休み明けどうすればいいのか悩んでいました。今回の実践を伺い、ヒントがたくさん見付かった気がします。

 一番つらいのは本児だと思うので。何があっても、本児に寄り添いながら、本児の安心できる場所を提供できるように方向を定めていきたいなと思いました。

 ありがとうございました。                   

・忙しい中、渦中の報告するにはとてもつらい実践をレポートしてくださり、ありがとうございました。私がかかわってきた子どもたちを思い出しました。自分のできていなかったことも含めて。

 A君に寄り添い、何が彼のためになるのか、手探りとはいえ、大事にしていく視点をしっかりと伝えてくれていて、とても学習になりました。もっと多くの方々に聞いてほしかったと思います。

 私はA君が「中学校は僕のことをわかろうとしてくれる」という言葉が、レポーターさんのかかわり、また、他の教員集団のかかわりがとてもいいのだと思いました。

一つひとつ丁寧に仕事を進められている姿が目に浮かびます。

 A君の成長に大切な事、職員を巻き込んでの体制づくり、保護者たちへの対応、そして、Aさんのご両親への対応などまだまだ課題は山ずみだとは思いますが、A君のその後を聞きたくなりました。よろしくお願いします。

 


 
CATEGORY
NEW ENTRY
PROFILE
ここから検索して買うとNNYJへの支援になります!
おすすめ
OTHER
MOBILE

Copyright (C) 2015 NNYJ All Rights Reserved.